ワークショップ報告-女性の健康シンポジウム-

ワークショップ報告:電通による創造的アプローチ

シンポジウム後半では、株式会社電通のクリエイティブチームによる、参加型のワークショップが開催されました。本ワークショップは、女性の健康課題に対して新たな視点からの社会モデルを創出することを目的に、参加者が主体となってアイデアを出し合う形式で進行されました。

ワークショップでは、参加者がさまざまな立場の人物になりきり、当事者視点から課題を考える「ロールプレイ形式」や、課題の“ネガティブ要素”を“ポジティブ要素”へと転換するアイディア発想法など、電通の実践的なクリエイティブ手法が体験的に取り入れられました。

主な構成と実施内容

① ロールプレイによる当事者視点の体験:
参加者は、女子高生、体育教師、ジャーナリスト、デザイナーなど多様な設定の人物カードを引き、実際の悩み相談(例:思春期の娘の摂食傾向)に対して、各立場になりきって助言を行いました。

② 海外事例のインプットと発想演習:
ジェンダー平等や女性の健康課題に関する国際的な先行事例(スウェーデンの除雪政策、フランスのマネキン法など)を紹介し、そこから学んだ視点をもとに日本社会での応用アイデアを議論しました。

③ ネガティブからポジティブへの転換:「女性のゆらぎ(心身の変動)」をテーマに、不便・不安・周囲への遠慮などの“欠点”を出し合い、それを反転させて新しい価値や社会的発明へとつなげる演習が行われました。

成果と所感

各テーブルでは、現実的な課題意識に基づきつつも、柔軟でユニークな発想が数多く生まれました。例えば、「生産性が落ちる」→「そもそも生産性を問わない社会設計」や、「性格が変わる」→「キャラクターの変化を楽しむ社会」など、常識的思考を一度外し、視点の転換から新たな価値を見出すプロセスが共有されました。

最後には、主催者から『医療や行政の枠を超えた多様な協働が、女性の健康課題の突破口となる』とのコメントもあり、異業種連携の可能性と、クリエイティブの力が社会に果たせる役割について再認識する機会となりました。

「女性の健康」シンポジウム報告

開会の言葉 – 池田裕美枝先生

2025年2月2日、女性の健康をテーマとしたシンポジウムが開催され、多くの医療関係者や研究者、一般参加者が集まりました。本イベントは、女性医療ネットワーク理事長の池田裕美枝先生の開会の言葉で始まりました。

池田先生は、冒頭で「女性医療ネットワークの20年の歩みと今後の展望」について語られました。「女性の健康を考えるとき、医療提供者だけでなく、女性自身が主体的に健康に向き合い、社会全体がサポートする仕組みが必要です。女性医療ネットワークは2003年に、女性外来を担当する医師の勉強会としてスタートしましたが、より多くの人々が関わることで、より良い女性医療を実現できると考え、NPO法人化しました。以来、私たちは『科学の視点』『臨床の視点』『当事者の視点』『ジェンダーの視点』『友人の視点』という5つの視点を大切にしながら、活動を続けています。」

現在、出生率の低下が加速し、妊娠・出産・育児を取り巻く環境はますます厳しくなっています。『女性が生きやすく、健康であること』が少子化対策の根本的な解決策の一つです。今日のシンポジウムでは、女性の健康の現状を科学的に見つめ、未来に向けてどのような取り組みが必要なのかを、第一線の専門家の先生方と共に考えていきたいと思います。

講演1:小宮ひろみ先生「女性の健康総合センターの取り組みと展望」

国立成育医療研究センター 女性の健康総合センター長である小宮ひろみ先生は、日本における女性の健康推進の歴史と、2024年に発足した女性の健康総合センターの役割と展望について講演されました。

2003年の女性医療ネットワーク設立以降、女性の健康に関する政策は徐々に整備されてきましたが、依然として男性中心の医療体系の中で女性特有の健康課題は後回しにされがちでした。小宮先生は、センター設立の背景として、健康寿命と平均寿命の乖離、女性特有疾患の増加、就業環境の変化などに触れ、包括的な健康支援の必要性を強調しました。

女性の健康総合センターは、データの収集・解析、基礎・臨床研究、情報発信、臨床機能の拡充、国際連携と政策提言という5つの柱のもと、横断的・学際的な取組を進めています。また、更年期障害への支援や、プレコンセプションケア、不妊対策、高齢期のフレイル予防など、ライフステージに応じた対応策の整備が急務であることが示されました。

講演2:山縣然太朗先生「ライフコースアプローチによる女性の健康支援」

山縣先生は、公衆衛生の立場から、女性の健康を支えるにはライフコース全体を見据えた視点が必要であると強調されました。胎児期から老年期までの健康は連続しており、特にDOHaD仮説(Developmental Origins of Health and Disease)に触れ、早期の環境や栄養が成人後の健康に及ぼす影響について説明されました。

また、教育格差、経済状況、ジェンダー役割、職場環境といった社会的要因が健康格差を生むことにも言及。骨粗鬆症や認知症、高齢女性のフレイル対策など、高齢期の課題にも触れられました。健康日本21や女性活躍推進法、フェムテックの導入など、政策的対応の進展を評価しつつ、科学的エビデンスに基づく予防医療と社会支援の重要性を強調しました。