2025年8月13日cnet共催:日本&フランス~性暴力予防教育の最前線から~

女性医療ネットワーク共催「日本&フランス~性暴力予防教育の最前線から~」のアーカイブはこちらからご覧いただけます。
ぜひご覧ください。

****************開催概要****************
日時:令和7年8月13日(水)15:00~18:00
場所:西川口榎本クリニック 3F(埼玉県川口市並木3-12-6)
プログラム
15:00~
●シンポジウム開催にあたって
池田 裕美枝さん(NPO法人女性医療ネットワーク理事長)

15:10~15:55
●ゲスト①
斉藤 章佳さん(西川口榎本クリニック副院長/精神保健福祉士・社会福祉士)
テーマ「日本における性暴力予防教育の取り組み」
専門は加害者臨床で、長年にわたって「性犯罪者の地域トリートメント」における、啓発・実践・研究に取り組んでいる。

16:00~16:45
●ゲスト②
Sebastien Brochot(セバスチャン・ブロシェさん)
テーマ「フランスにおける性暴力予防教育の取り組み」
フランス各県にある県立性暴力予防機関CRIAVSの研修担当者。教育、児童相談所や施設、少年法の分野で予防教育を行う。

●コーディネーター&通訳
安發明子さん(フランス子ども家庭福祉研究者)
早稲田大学社会的養育研究所招聘研究員、パリ市ソーシャルワーカー養成校AFRIS理事。

16:50~ 18:00
●鼎談&質疑応答
テーマ「これからの性暴力予防教育について」
斉藤さん × セバスチャンさん × 安發さん

2025年2月2日②ワークショップ報告-女性の健康シンポジウム-

ワークショップ報告:電通による創造的アプローチ

シンポジウム後半では、株式会社電通のクリエイティブチームによる、参加型のワークショップが開催されました。本ワークショップは、女性の健康課題に対して新たな視点からの社会モデルを創出することを目的に、参加者が主体となってアイデアを出し合う形式で進行されました。

ワークショップでは、参加者がさまざまな立場の人物になりきり、当事者視点から課題を考える「ロールプレイ形式」や、課題の“ネガティブ要素”を“ポジティブ要素”へと転換するアイディア発想法など、電通の実践的なクリエイティブ手法が体験的に取り入れられました。

主な構成と実施内容

① ロールプレイによる当事者視点の体験:
参加者は、女子高生、体育教師、ジャーナリスト、デザイナーなど多様な設定の人物カードを引き、実際の悩み相談(例:思春期の娘の摂食傾向)に対して、各立場になりきって助言を行いました。

② 海外事例のインプットと発想演習:
ジェンダー平等や女性の健康課題に関する国際的な先行事例(スウェーデンの除雪政策、フランスのマネキン法など)を紹介し、そこから学んだ視点をもとに日本社会での応用アイデアを議論しました。

③ ネガティブからポジティブへの転換:「女性のゆらぎ(心身の変動)」をテーマに、不便・不安・周囲への遠慮などの“欠点”を出し合い、それを反転させて新しい価値や社会的発明へとつなげる演習が行われました。

成果と所感

各テーブルでは、現実的な課題意識に基づきつつも、柔軟でユニークな発想が数多く生まれました。例えば、「生産性が落ちる」→「そもそも生産性を問わない社会設計」や、「性格が変わる」→「キャラクターの変化を楽しむ社会」など、常識的思考を一度外し、視点の転換から新たな価値を見出すプロセスが共有されました。

最後には、主催者から『医療や行政の枠を超えた多様な協働が、女性の健康課題の突破口となる』とのコメントもあり、異業種連携の可能性と、クリエイティブの力が社会に果たせる役割について再認識する機会となりました。

2025年2月2日①「女性の健康」シンポジウム報告

開会の言葉 – 池田裕美枝先生

2025年2月2日、女性の健康をテーマとしたシンポジウムが開催され、多くの医療関係者や研究者、一般参加者が集まりました。本イベントは、女性医療ネットワーク理事長の池田裕美枝先生の開会の言葉で始まりました。

池田先生は、冒頭で「女性医療ネットワークの20年の歩みと今後の展望」について語られました。「女性の健康を考えるとき、医療提供者だけでなく、女性自身が主体的に健康に向き合い、社会全体がサポートする仕組みが必要です。女性医療ネットワークは2003年に、女性外来を担当する医師の勉強会としてスタートしましたが、より多くの人々が関わることで、より良い女性医療を実現できると考え、NPO法人化しました。以来、私たちは『科学の視点』『臨床の視点』『当事者の視点』『ジェンダーの視点』『友人の視点』という5つの視点を大切にしながら、活動を続けています。」

現在、出生率の低下が加速し、妊娠・出産・育児を取り巻く環境はますます厳しくなっています。『女性が生きやすく、健康であること』が少子化対策の根本的な解決策の一つです。今日のシンポジウムでは、女性の健康の現状を科学的に見つめ、未来に向けてどのような取り組みが必要なのかを、第一線の専門家の先生方と共に考えていきたいと思います。

講演1:小宮ひろみ先生「女性の健康総合センターの取り組みと展望」

国立成育医療研究センター 女性の健康総合センター長である小宮ひろみ先生は、日本における女性の健康推進の歴史と、2024年に発足した女性の健康総合センターの役割と展望について講演されました。

2003年の女性医療ネットワーク設立以降、女性の健康に関する政策は徐々に整備されてきましたが、依然として男性中心の医療体系の中で女性特有の健康課題は後回しにされがちでした。小宮先生は、センター設立の背景として、健康寿命と平均寿命の乖離、女性特有疾患の増加、就業環境の変化などに触れ、包括的な健康支援の必要性を強調しました。

女性の健康総合センターは、データの収集・解析、基礎・臨床研究、情報発信、臨床機能の拡充、国際連携と政策提言という5つの柱のもと、横断的・学際的な取組を進めています。また、更年期障害への支援や、プレコンセプションケア、不妊対策、高齢期のフレイル予防など、ライフステージに応じた対応策の整備が急務であることが示されました。

講演2:山縣然太朗先生「ライフコースアプローチによる女性の健康支援」

山縣先生は、公衆衛生の立場から、女性の健康を支えるにはライフコース全体を見据えた視点が必要であると強調されました。胎児期から老年期までの健康は連続しており、特にDOHaD仮説(Developmental Origins of Health and Disease)に触れ、早期の環境や栄養が成人後の健康に及ぼす影響について説明されました。

また、教育格差、経済状況、ジェンダー役割、職場環境といった社会的要因が健康格差を生むことにも言及。骨粗鬆症や認知症、高齢女性のフレイル対策など、高齢期の課題にも触れられました。健康日本21や女性活躍推進法、フェムテックの導入など、政策的対応の進展を評価しつつ、科学的エビデンスに基づく予防医療と社会支援の重要性を強調しました。

2024年6月23日HPVワクチン失われた10年に何が起こっていたのか

2024年6月23日13時半〜15時、富山市のよしもとレディースクリニックアネックスホール2Fにて、NPO法人女性医療ネットワークとウィメンズアクションとやまの共催で、ハイブリッドイベント「HPVワクチン〜失われた10年に何が起こっていたのか〜」が開催されました。司会は医療ライターで女性医療ネットワーク理事でもある増田美加さんにより行われ、現地参加30名、オンライン参加286名の盛況となりました。
動画はこちらからご視聴いただけます。https://www.youtube.com/watch?v=GU_xlmY_jZs

子宮頸がんとHPVワクチン

まず、富山県会議員であり、女性クリニックWe!TOYAMAの産婦人科医師で、女性医療ネットワークの創設メンバーでもある種部恭子先生より「子宮頸がんとHPVワクチン」についてお話がありました。

子宮頸がんは治療対象となる女性が若年であったり妊娠中であったりすることから、治療にあたる産婦人科医師はその予防への思いが強いとのことです。子宮頸がんは検診で、自覚症状がない早期に見つけることができ、その場合、子宮を残す円錐切除術で治療ができることもあります。しかし、円錐切除は不妊のリスクを22倍、早産や低出生体重のリスクを2.5倍にする処置です。
そこで、検診+円錐切除ではない子宮頸がんの予防方法として、HPVワクチンには大きな期待を寄せることになりました。HPVワクチンには2価、4価、9価の3種類があります。進行が早いHPV16と18を予防するのが2価と4価。加えて、更に多くのがんの原因となるHPV型を予防するのが9価です。特にワクチンの役割が大きいのが腺癌の予防です。子宮頸がんには腺癌と扁平上皮癌があり、腺癌は検診で見つかりにくく、早期発見が難しい上に転移も多く治療抵抗性という特徴があります。以前は扁平上皮癌が95%と言われていましたが、近年腺癌の割合が2割以上に増えてきました。ここで、腺癌の9割はHPV16と18によるものであることから、ワクチンの有効性が期待されています。さらに、扁平上皮癌においても、9価のワクチンを接種することで、その9割近くが予防できる可能性があるのではないかと期待されています。

HPVワクチンの副反応報道

待望のHPVワクチンが定期接種となる頃、接種後に重篤かつ多様な症状を訴える人たちの存在が明らかになり、国はそれが副作用かどうかを確認できるまで一時的に接種の勧奨を中止することにしました。接種後に多様な症状が起こる割合は、2015年の段階で、2万人に1人の割合でしたが、その後の調査で、HPVワクチンを打った人も打たなかった人も、同様の割合で同様の症状が起こる人がいることがわかりました。産婦人科医師たちの関心事は、この多様な症状をきたした人たちをがどうやったら治療できるのかという点です。その一つの道筋はを、WHOがまとめた。予防接種ストレス関連反応(ISRR)です。ISRRは接種にまつわる不安が契機となり生じる様々な症状で、急性反応と遅発反応がありますが、当時メディアで副反応として報じられていた人たちの一部には、この遅発性反応の一部が含まれていた可能性があり、どういった治療が有効なのかもまとめられています。

HPVワクチン接種にまつわる情報をどう扱うかが、少女たちの健康や命を左右する

ではどうやったらISRRを予防できるのでしょうか。WHOのガイドラインによると、ISRRに影響を与える要因は、予防接種に対する地域社会の理解水準及び価値だそうです。具体的には、予防接種に関する虚偽の噂や、理解をミスリードするSNS情報などがリスクに含まれます。ISRR以外でも、HPVワクチン接種後に有害事象が起こった際には、厚労省が構築した拠点病院とかかりつけ医とのネットワークで適時適切に治療が受けられる仕組みが作られています。実は、厚労省がHPVワクチンの積極的勧奨を中断していた8年間に、HPVワクチンの効果に関する様々なデータが公表されました。そのひとつが、HPVワクチンが子宮頸がん をどれだけ予防するか、というものです。10−16歳が4価のワクチンを接種すると88%、17−30歳の接種で53%もの子宮頸部浸潤癌が予防できるというのです。これを日本の現状に換算すると、日本のHPVワクチン対象者が接種しないことで、1日12人ずつ子宮頸がん が確定、1日3人委任ずつ死亡が確定する、ということになります。
最後に「HPVワクチンを打たないことを勧める情報を発信する皆様には、HPVワクチンを打たないことのリスクとともに、その発信そのもの報道がISRRの発症に影響を与えることについて、理解と責任を持ってほしいと思います」と訴えられました。

何が起こっていたのか〜医療では〜

次に、丸の内の森レディースクリニック院長で、女性医療ネットワークの理事でもある産婦人科医師の宋美玄先生から、「何が起こっていたのか〜医療では〜」と題してHPVのワクチンに関する医療と報道をめぐる騒動を時系列で振り返っていただきました。
HPVワクチンは2009年に承認され、2013年4月に定期接種になりましたが、同時期から有害事象の報道が相次ぎ、同年6月に積極的推奨が控えられて接種率はほぼゼロとなりました。この頃、HPVワクチンに関する報道はネガティブ一色でした。2015年ごろから有効性や副作用についての疑義についても報道されましたが、SNS上では、HPVワクチンに対するバッシングが強かったそうです。HPVが性交渉で感染することから、ウィルスをもらうのは自己責任である、とか、子宮頸がん になるのは検診を受けなかった自分のせいではないか、などの、子宮頸がんにかかった人を責めるようなバッシングもがありました。医療者も、HPVワクチンについて発信するとバッシングされる状況で、沈黙が続いてしまいました。2018年に、ワクチンを接種した人も接種していない人も同じ割合で様々な症状が生じるという内容の名古屋スタディが英文で発表され、この頃から世論がやや風向き代わったようです。 2020年に9価ワクチンが承認され、2020年ごろ一部自治体により定期接種に関する個別通知が再開されました。そして2021年11月に積極的勧奨が再開されることとなり、さらに2022年4月にキャッチアップ接種(積極的勧奨が中止されていた間に接種の機会を逃した方々への無料接種)が開始されています。

HPVワクチン接種後の有害事象をめぐる報道

2016年ごろ、HPVワクチンが危険との報道がピークになっていました。厚労省研究班で元信州大学学長の池田修一氏による、ワクチンが脳細胞に影響する可能性があるという研究結果もこのころ報道されました。あとからわかったことですが、これはたった一匹のマウスの予備的な実験結果であり、信憑性が高いとは言えないものだったのです。
2015年Wedgeという雑誌で、医師でありジャーナリストである村中璃子さんによる副反応報道に対する疑義を訴える記事がありました。実はこのあと、この記事の中で村中氏が池田氏の研究を「捏造」と表記したことが名誉毀損で訴えられ、敗訴しています。これは、名誉毀損に関する敗訴であり、池田氏の研究成果の正当性についてを示す争った裁判ではなかったにもかかわらず、ワクチンの危険性が裏付けされたように捉えた方もいたようです。これに続くように、読売新聞におられ後にバズフィードに移籍されたジャーナリストの岩永直子さんにより、副反応報道への疑義が数々発信されました。
先にお示しした名古屋スタディの研究結果の概要がはじめて名古屋市のHPで公表されたのは2015年です。しかしこの研究はがHPVワクチンの危険性を示そうという名古屋市長の意図で企画されたものであり、結果が予想と異なってHPVワクチンの安全性を示すものであったことから、3日でHP情報は削除され、以後3年間、内容の詳細は公表されませんでした。2020年ごろより勧奨中止による子宮頸がん 死亡の増加が報道されるようになり、現在は接種が再開されています。しかし親世代に、「怖いワクチン」というイメージが残ってしまっており、なかなか接種が進まない状況にあります。

何が起こっていたのか〜報道では 

次に、元読売新聞の記者で、その後バズフィードに所属し、今はフリーランスの記者として活動されている岩永直子さんに、当時の状況から現況までをお話いただきました。岩永さんはオンラインでご参加くださいました。

岩永さんが読売新聞をやめるきっかけとなったのが、HPVワクチンワクチンの安全性や特集を組んだことなのだそうです。
医療人類学者の磯野真穂さんによる後方視的調査によると、2013年3月頃の朝日新聞による副反応報道をきっかけにネガティブな報道が増えたのだそうです。それは、ワクチン接種後の有害事象を生じた方々が、涙ながらに副反応被害を訴える記者会見の報道でした。その後、メディアでは痙攣する女の子の動画がたくさん流れました。この頃は一部の医師が提唱していたHANS症候群というワクチンによる副反応被害を示す言葉とセットで数々の報道がなされていました。
岩永さんは、前述の村中璃子さんの記事や、感染症専門看護師の堀成美さんの講義などにより、HPVの有効性をきちんと報道しなければと考えられたそうです。そこで特集を企画しましたが、2016年時点でも多くの医師に取材を断られました。理由は、ワクチン被害団体からの抗議への恐れや、上司からの反対であったとのことです。それでも取材に答えた医師が複数名おり、2016年8月にヨミドクターで特集を開始しました。産婦人科医師、小児科医師などにより、HPVの安全性、有効性を示す記事が報道されました。
ところがこのあと、HPVワクチンに反対する方々、被害を訴える方々から新聞社へのクレームが殺到したそうです。医師の所属機関にもクレームが殺到し、記事の削除を求められるまでになりました。協議の末、読売新聞として小児感染症科の森内浩幸先生の記事を削除することになりました。新聞が記事を削除するというのはとても大きなことです。これを機に、岩永さんは処分をうけ、医療取材班から外されることになりました。これが、岩永さんが読売新聞を退社されたきっかけとなったそうとすです。退社後バズフィードに入社し、そこで削除された森内先生の記事を再度公表されました。削除しなければいけない理由は何一つなかったからです。岩永さんはその後バズフィードでHPVワクチンに関する記事をたくさん書いておられます。

メディアは失敗したのだから、HPVワクチンについて報道し続けなくてはいけない

当時メディアは有害事象と副反応を区別せずに、副反応や薬害という言葉を用いて報道し、あとから修正することはありませんしませんでした。しかし、当事者が求めているのは、その有害事象の治療や回復に向けた情報発信です。東京大学の奥原剛先生は、「読みよみやすくて感情に訴える、という点でHPVワクチン反対派に推進派は負けている」と指摘しました。それを踏まえ、現在岩永さんは、不安を理解して解消するためのコミュニケーションを心がけておられるそうです。
現在HPVワクチンは推進される方向にありますが、まだまだ男性の定期接種が足踏み状態にあります。「HPVワクチンについて、過去にメディアは失敗したのだから、取り返しのつかない被害を少しでも食い止めるために報道し続けなくてはならないと思います」と述べ、お話しを締めくくられました。

『メディア・バイアスの正体を明かす』 報道は、なぜこうも歪んでしまうのか?そこに潜むものは?

次に、ジャーナリストで元毎日新聞の小島正美さんからお話をいただきました。小島さんには『フェイクを見抜く 危険 情報の読み解き方』という著書があります。
小島さんによると、副反応報道がなされていたその時期、記者は別に煽ろうと思って書いていたわけではないとのことです。ただ当時、被害を訴える人がいると同時に弁護士や医者がもっともらしい理由をつけており、話題性が高かった。記事として書きやすかった、ということでした。日本産科婦人科学会やがんセンターの方々がすぐに反論してくれたら話は違ったかもしれないけれど、それはありませんでした。
小島さんからみて、当時の状況をひっくり返したのは、やはり村中璃子さん。池田氏の研究成果についての記者会見では、皆そのわかりやすい結果について聞くのみで、マウスの実験がどんなものだったのかの詳細を尋ねる記者はいませんでした。実際は予備的な試験で、その時点で報道するような内容ではなかったのに、多くの記者が結論だけ書いてしまいました。その後、報じた記者たちが「あれは間違いだった」と書いてくれたら良かったけれど、それはほぼありませんでした。そもそも、記者は自分が書いたものを修正するような自己検証の姿勢に欠けている点があるのかもしれない、とのことです。
小島さんは、村中璃子さんが2017年にジョン・マドックス賞を受賞したときにそのことを記事にしたいと考えていましたが、上司から止められたそうです。上司は市民団体からの抗議を恐れていました。当時の状況の一例として、産経新聞がHPVワクチンの効果に関する記事を書いた後、厚労省の記者クラブに、抗議文が貼って張ってあったということもありました。
しかし現在は風向きがかわっています。HPVワクチンが危ないと書いた記者本人が人事異動で今はいなくなっていて、当時の状況を知らない若いジャーナリストが、純粋に記事を書ける状況になっています。最後に、「いま皆さんにお伝えしたいことは、メディアが書いていることがおかしいと思ったらすぐに反論したほうがいいということです。」と訴えられました。

HPVワクチンの効果を示す番組を報道するにいたるまで

次に、現役のNHKディレクターである藤松翔太郎さんにお話を伺いました。NHK「おはよう日本」でHPVワクチンの効果を示す番組の報道を企画された方です。
藤松さんは2012年にNHKに入職され、震災や原発のテーマに始まり、癌をめぐる様々な事象の取材を開始されました。2020年6月のがん学会の際、ランチをしているときに取材対象のYokoさんから「なんでマスコミはHPVのことを放送しないの?」と聞かれ、このとき初めてHPVワクチンをめぐる騒動について知ったそうです。調べているうちに、なんでNHKでアップデートされないの?との思いから、がんになったのはテレビのせいです、というテーマをNHKスペシャルで扱うことを企画提案されました。このとき周囲の反応は言葉は「覚悟はある?」という言葉から始まったそうです。ワクチン被害を訴える方々からのクレームがあったときにどんな風ふうに理論武装するのか。今も裁判が続いていることも頭の片隅におきなさい、とのアドバイスもありました。しかしこのとき、このテーマは絶対やるべきだと言い続けてくれた人がいたそうです。この人がさらに上層部に掛け合ってくれて、企画から44〜55ヶ月後に報道が実現しました。それが2021年3月4日放送のおはよう日本「HPVワクチンはいま」です。報道まで、様々な観点を社内で議論し、自らも英文論文を読み、更に専門家にきいて頑張って勉強されたそうです。報道では、奥様をがんで失ったご主人が、双子のお子さんの髪を編む様子を取り上げました。報道後、本当にたくさんの反響があったそうです。当時のTwitterでは好意的な意見が大半を占めていました。
NHKも、公式見解待ち、世論醸成待ち、といった社内の空気があるそうですが、藤松さんは、「グレーな部分の伝え方についてはまだまだ未熟な点が多い」といいます。それでも、一言一句、上司と相談して、伝え方を模索していて、そういった姿勢は後進にも続いているのだそうです。
おはよう日本の報道の後、潮目も変わりました。しかしながらワクチンについての誤解を植え付けられたお母さんたちは、「ワクチン推進派が怖い」、ということもあるそうです。当事者の不安を取り除くために、検索したらすぐに出てくる情報を作ることも重要と考え、#がんの誤解のNHKページ(https://www.nhk.or.jp/minplus/0119/)ではHPVワクチン関連の記事を14本掲載しており、いつでもどこでも読むことができます。今も、どんな報道をしたらキャッチアップ世代の学生に届くか、を模索されているそうです。

HPVワクチン慎重派と性教育慎重派には共通した価値観がみえることがある

次に、埼玉医科大学の産婦人科医師で、活発な性教育活動をなさっている高橋幸子先生より、HPVワクチンバッシングと性教育バッシングの共通点などについてのお話がありました。高橋幸子先生は、女性医療ネットワークの理事でもあります。

現在行われている、接種を逃した世代の女性達のキャッチアップ接種には、当事者である大学生たちが「もう一回打つチャンスをください」と活動し、署名をあつめ、政治家の方たちに訴えて実現したものです。しかし現在、そのキャッチアップ接種について、対象の方々にほとんど情報が届いていないという現状があります。
ここで、先生方が性に関する大切な情報発信を続けられる中で、HPVワクチン慎重派と性教育慎重派が重なっているように見えることがあるそうです。
日本の性教育には、小学校5年生で受精に至る過程を教えない、などのいわゆる歯止め規定があります。性教育慎重派には寝た子を起こすな、という論調がありますが、その背景には、女性や子どもの性を管理する「家父長制」を重んじる考え方があります。
先般、性暴力に関する刑法が改正され、またLGBT法案が成立しましたが、この議論は国会内で同時期に行われていました。刑法改正の議論では包括的性教育の大切さが訴えられているのに、LGBT法案の議論では包括的性教育は許されないなど訴えられるという、歪んだ事象がありました。包括的性教育は、個々の人権を重んじてジェンダーの平等を目指すものです。それは、女性の性を管理しようという家父長制の考え方とは異なるのかもしれませんが、私たちは、自分のからだについて自分でよく知り自分で決められることが大切だと考えています。HPVワクチンに関しても、自分で選択できるようにすることが大切だと考えています、と語られました。

歴史を踏まえ、これから私達はどう向き合っていくのか

このあと、これまでお話くださった登壇者により「「歴史を踏まえ、どう向き合うのか・・・アカデミアは?メディアは?市民は?」というテーマでのディスカッションがありました。
最後に閉会の挨拶をした女性医療ネットワークの初代理事長である産婦人科医師の対馬ルリ子先生からも、HPVワクチンの接種がすすまないこれまでのことを振り返る中で、低用量ピルの認可が国会でのひとことで10年も遅れてしまったことなどが思い出されたとの感想が語られました。

本シンポジウムをとおして、私達女性医療ネットワークは、ひとりひとりが自分のからだのことを自分で決められる社会を目指して、これからも科学の視点、臨床の視点、当事者の視点、友人の視点、ジェンダーの視点のそれぞれを大切に、活動していきたいとの思いをさらに強くしています。

*18歳未満の方の顔を隠しています

写真:金子修磨、三浦敏明
文章:池田裕美枝

第1回「わたしたちの女性医療、どうなったらいいの?会議」~産婦人科受診で傷ついた体験を考える~ 開催レポート

国際女性デー(3月8日)に合わせ、NPO法人女性医療ネットワーク主催による「わたしたちの女性医療、どうなったらいいの?会議」の第一回が、3月4日にオンラインで開催されました。
イベントには、医療関係者と一般の方双方あわせて約180名の申し込みがあり、初回を盛会のうちに終えることができました。

========================================
●プログラム開催概要
NPO法人女性医療ネットワーク主催 オンラインイベント
第1回「わたしたちの女性医療、どうなったらいいの?会議」
~産婦人科受診で傷ついた体験を考える~

日時:2023年3月4日(土)
開催方法:Zoomウェビナー

・趣旨
「産婦人科は行きにくい」、「大股広げてる状態で、長時間放置された」、「ピルがあまりに高額すぎる」-。女性のカラダにまつわる医療に、「なんとなく怖くて、嫌な思いをするところ」というイメージを持ってしまっている人は、少なくないはず。
そこで私たちは、「市民(患者)を真ん中に女性医療を考え、アップデートする共創拠点」を立ち上げ、私たちとドクターがフラットに語り合えたり、婦人科や産科、不妊クリニックがもっとやさしく、身近な場所になるための未来を、一緒に描くことにしました。今回は、そのシリーズ初回となるオンラインイベントです。

・第一回テーマ
「産婦人科受診で傷ついた体験を考える~患者と医師のホンネとは」

●プログラムおよび登壇者一覧(敬称略)
◇開会の挨拶
総合司会:増田美加(女性医療ジャーナリスト・女性医療ネットワーク理事)

◇産婦人科受診で傷ついた体験の紹介(集英社SPUR編集部・読者アンケートから)

◇「患者のホンネ、医師のホンネ」(登壇者3名によるクロストーク)
モデレーター:
池田裕美枝(産婦人科医・女性医療ネットワーク副理事長)

登壇者:
・垂井清子(集英社SPUR編集部エディトリアルディレクター)
・スプツニ子!(アーティスト・東京藝術大学デザイン科准教授・株式会社Cradle代表取締役社長)
・吉本裕子(吉本レディースクリニック院長・女性医療ネットワーク理事)

◇閉会の挨拶
増田美加
========================================

開会のご挨拶

当法人理事で、本イベントの総合司会を務める女性医療ジャーナリスト増田美加より、開会の挨拶と、本イベントの開催趣旨が語られました。


本イベントの趣旨説明を行う増田美加氏

増田:みなさまこんにちは。これから「私たちの女性医療、どうなったらいいの?会議」第1回を開催いたします。本イベントは、NPO法人女性医療ネットワークが主催する、「産婦人科や女性特有の医療で傷つく人たちを減らし、みんなが安心してココロとカラダを守れる社会づくり」を考えるシリーズ企画の第1弾です。

産婦人科で傷ついた体験を、あちこちで耳にすることが少なくありません。それを“そんなものかな”で終わらせたくないというのが、このイベントの開催趣旨です。「医療の利用者側と提供者側で、共に私たちの女性医療を作っていきたいと考え、この度の企画の実現に至りました。

本日のプログラムは最初に産婦人科受診で傷ついた体験の紹介をさせていただき、その後、患者の本音、医師の本音ということで登壇者によるクロストークを行います。

この場の決まりごと「グラウンドルール」説明

初めに、当法人副理事長の池田裕美枝氏がモデレーターとなり、登壇者・参加者問わず本イベントに関わる全員が守っていく共通の場のルール、「グラウンドルール」の説明が行われました。


池田裕美枝氏

池田:本日は、医療の利用者側の人と、医療の提供者側の人がフラットな立場で対話するということを、イベントの目的にしています。そのためのルールとして、さまざまな立場の先生方がいらっしゃるとは思いますが、呼称は全員「さん」で統一したいと思います。

また、立場の違う人たちがお話し合いをする中で、モヤモヤすることもきっとあると思います。そのモヤモヤはこの会の後に持ち越さず、この座談会の時間で全部出していくということをぜひめざしていきたいと思います。お一人お一人が抱いた違和感はとても大事ですから、「違和感を“なかったこと”にしない」場作りに、ご協力をお願い致します。

「産婦人科受診で傷ついた体験」の紹介

続いては、クロストークに先立ち集英社SPUR編集部の垂井清子氏により、読者アンケートで寄せられた「産婦人科受診で傷ついた患者の体験」の紹介が行われました。

垂井氏が携わるSPUR.JPでは、女性の身体にまつわる悩みを可視化し、「フェムテック」にできることや、身体周りのトピックを考え、調査する連載を配信しています。
このために組織したのが、SPUR.JPが擁する「フェムテック調査団」。現在は読者メンバーを200名抱え、女性医療にまつわる読者参加型のイベントや座談会などを行っています。

垂井:「フェムテック調査団」ではこれまで、さまざまな読者アンケートを行い企画に活かしてきました。2022年7月に行った産婦人科診療に関するアンケート調査では、638名の方にご回答いただきました。

アンケート調査からは、産婦人科を定期的に受診しているかどうか、かかりつけの産婦人科はあるかどうかなどの割合や実態が明らかになりました。また、「医師の言動や行動で嫌な気持ちになったり、傷ついたりした経験がありますか?」という別のアンケート調査では、約3人に1人が「傷ついた経験がある」という結果になりました。

それでは、「実際にどんなことが嫌だったか」について、寄せられた回答の一部をご紹介したいと思います。

(問診編)
・診療中、医師がまったく目を合わそうとせず、こちらの話をちゃんと聞いているのか不安になった。
・持病のため受診したところ、担当の男性医師に「早く産んだほうがいいんじゃない」と言われた。こちらの状況を知りもせず、一方的な言葉に嫌な思いがした。

・一人目を出産後、あまり間隔をあけず二人目を妊娠したため、「子宮の状態が不安です」と伝えたら、「だったら子どもを作らなければよい」と言われた。etc…


患者さんから寄せられた声を紹介する垂井清子氏と出演者陣

クロストーク

垂井氏による患者さんの声の紹介を受け、ここからは、垂井氏、アーティストでフェムテック起業家でもあるスプツニ子!氏、産婦人科医の吉本氏の3名をパネリストに、医師と一般の方(患者)それぞれの立場、視点からクロストークが行われました。


池田氏(左上)をモデレータに、クロストークを展開する吉本氏(右上)、垂井氏(左下)、スプツニ子!氏(右下)

医師と患者で心のすれ違いの可能性も

池田:患者さんの声は、産婦人科医の立場からすると大変ショックな内容でしたが、スプツニ子!さん、吉本さんはどうお感じになりましたか?


スプツニ子!氏

スプツニ子!:ご質問にお答えするために、少し私自身の話からさせてください。私は2010年に『生理マシーン。タカシの場合。』という「男性が生理を体験するためのデバイス」をアート作品として発表し、現在はCradleという会社を立ち上げ、企業で働く女性の健康をサポートするためのオンラインサービスを提供しています。なぜ私が女性のヘルスケアについて興味を持ち続けているかというと、18歳の頃の経験が大きいんですね。

中高時代は日本にいたのですが、とても月経が重くて産婦人科に相談したところ、特にアドバイスやサポートもなく結局解決には至りませんでした。その後イギリスの大学に留学して、月経痛について再び医師に相談したら、すぐ半年分のピルを出してもらえ、やっと不調や健康状態が改善しました。

イギリスと日本の違いを目の当たりにし、日本ではまだまだ女性が自分の身体をケアする知識が共通認識になっておらず、メディアでも十分発信されていないと思い知ったことが、今の活動に繋がっています。でも先ほどの患者さんからのコメントをみても、まだまだ私たちにできることはたくさんあると改めて思いました。

医療界をみても、日本はOECD諸国のなかでも女性医師の割合が最下位に近く、最近まで医学部の入学試験で女性が不利になるような採点法が一部の大学で行われるなど、女性医師の数を意図的に抑えてきた現実があると認識しています。

こうした構造的な問題に加え、先ほどの患者さんの声を聞いて改めて、産婦人科領域は社会と密接な領域にも関わらず、患者さんとのコミュニケーション面での配慮や社会に向けての啓発活動などはまだ十分とは言えないのではないか、と感じました。

 


吉本裕子氏

吉本:私自身も、高校生で産婦人科を受診した際に嫌な思いをしたのがきっかけで、三浪の末医学部に入りました。その後、産婦人科医となり、「敷居が低くて患者さんが受診しやすいクリニックを作ろう」との想いから産婦人科クリニックを開業しました。

ですが、日々患者さんに寄り添いながら診療していても、「あそこのクリニックに行ったら嫌な思いをしました」などと当院の口コミに書かれていることがたまにあります。なるべく患者さんが産婦人科に抵抗感を持たないようにと、一生懸命気をつけながら接していますが、それでもどこかで医師と患者さんの間で心のすれ違いや、受け止め方の違いがあるのでしょう。

内診台のカーテン一つとっても、先ほどご紹介いただいた患者さんの声に「カーテンせずに診察された」と否定的な声がありました。当院では開業当初から、カーテンの向こう側で行われていることが患者さんにも分かるよう、あえて少し透けて見えるカーテンを付けていました。さらに最近では患者さんにより安心してもらおうと、カーテン自体を撤去したところ、「あのクリニックは股を広げたところをみんなに見られる」と書かれてしまって。

患者さんのためにと思って実践していることが、患者さんにとっては違う風に受け止められることもある。先ほどのアンケート結果を聞きながら、自分もまだまだ気をつけなくてはいけないんだなと心が痛むとともに、本当に難しいテーマだなと改めて思いました。

医学部教育のアップデートを

スプツニ子!:医師のお二方に伺いたいことがあります。社会と密接なかかわりをもつ産婦人科領域こそ、患者とのコミュニケーションのスキルや、女性の権利の歴史などを学ぶことで何かしら診療に活かされると私は思うのですが、今の医学部教育のなかで、そういったことはどれぐらい実践されているのでしょうか?

吉本:私が大学生だったのは30年ほど前ですが、当時はコミュニケーションに関する教育というのは、まったくなかったですね。5年生になって初めて、臨床で患者さんの問診を取る練習をしたぐらいです。でも、息子が今医学生なのですが、聞くと、1年生のときから医療面接という授業があって、学生が患者さん役の人と面接する様子を先生がチェックして、点数をつけているようです。

池田:医学教育でいうと、2004年から新医師臨床研修制度がスタートし、研修医は全員2年ほどかけてあらゆる科をローテートすることが義務付けられました。これを機に、医学教育はかなり大きく変わったんですね。今は全ての大学で、患者中心医療の方法論を学ぶようになっているはずです。

スプツニ子!:なるほど。全体的に医学教育が変わってきているのですね。ただ、産婦人科は今社会の最前線で話題となっているジェンダーやLGBTQの問題に関わることが多いので、教育だけを変えてもなかなか追いつかないこともあるのかもしれませんね。一方、『SPUR』のように、メディアを通して患者側のリテラシーを高めていく取り組みは、ここ2、3年で本当に大きく進んだなと実感しています。

垂井:本当にそうなんですよね。女性同士でさえ語ることができなかった身体にまつわることを、オープンに話せるようになりつつあるのはとてもいいことだと思っています。

ただ、やはりアンケートを通して思うのは、患者さんが医療にお任せしすぎていて、「病院に行けばなんとかしてくれる」と思っている方が多いのではないか、ということです。本来なら、自分の身体のことなんだから自分でよく考えて、「自分はこう思うので、こんな治療をしてみたいです」と、医師に積極的に意見を言えるような状態に日本もなればいいなと思いました。

スプツニ子!:リテラシーを高めるというのは本当に大切だと思っています。私もセミナーを行うなかで、ピルの効果が避妊以外にもあることや、更年期治療にホルモン補充療法というものが存在することを知らない方が結構いらっしゃることに驚くんですね。

なかでも私がもったいないなと思うのが、反科学に近い志向をもたれていて、科学的なワクチンや薬に頼りたくないという層が一定数いらっしゃることなんです。個人的には科学の力でより多くの人が幸せになれればいいなと思っていますが、だからといってこちらが踏み込みすぎると、その方の意思を侵害しているような感覚にもなり、アプローチの難しさを感じています。

池田:本当に難しいですよね。そこで私たち医師が技術として学ぶのが、患者中心医療の実践なんですね。患者さんが求めていないことはやらない、患者さんの支援をするのが我々の仕事であって、患者さんの管理や意思決定には立ち入らないという。水飲み場に連れていくまではしますが、水を飲むかどうか決めるのはあなた、ということです。反科学の件はさておき、基本ラインとしてはそれが本来の医師と患者さんの在り方なんでしょうね。

でも、そもそもそれ以前の問題として、垂井さんの発表にあったように、患者さんの顔を始めから見ないとか、求められている説明をしないとか、つい医師の上から目線が滲み出て、患者さんを傷つけてしまっていることもあるのかなと思いました。

親子間や世代間の意識差をどうするか

吉本:先ほどの「患者さんのリテラシー」という点にも関係してくると思いますが、産婦人科特有かもしれないのですが、娘さんの診察についてきた母親と、医師がトラブルになることも結構あるんですね。

娘さんに「最近の月経はいつ頃でしたか?」と尋ねたら、お母さんが先回りして答えてしまう。そこで「お母さんに聞いていないのですが…」と言うと、カチンとされることがしばしばあります。ピルについても、娘さんはピルについてきちんと理解しているのに、母親のほうが「そんなの子どもに飲ませるんですか」と言ってくることもあって。医師と母親が言い合いになって診察が終わる、ということもあるんですよね。

スプツニ子!:確かに、ピルに関しては弊社のサービスのユーザーさんを診ると、20代の服用率はヨーロッパ並みに高いんですね。女性の健康に関する問題は世代によって意識の差がありそうですね。

垂井:母娘で産婦人科を受診されるケースということですが、ちなみにお嬢さんは何歳ぐらいの方ですか?

吉本:だいたい中高生ぐらいの子が多いですが、先ほどの話にあった月経について尋ねて、お母さんが答えてきたのは、18歳ぐらいの女性です。

垂井:18歳ぐらいでしたら、風邪で内科を受診したり、歯科医に行くのにも、恐らく一人のはずなのに、なぜ産婦人科だけお母さんと受診するのかという点がとても気になりました。

池田:本当ですね。母親自身に産婦人科でのトラウマがあったり、「怖いところだから親がついていかないと」、と思っているところがあるのかもしれませんね。

垂井:先ほどのアンケート結果にも一部ありましたが、産婦人科に通っているのを見られたくないということで、子どもが頼んだ可能性も考えられますよね。産婦人科に若い子が通うと、いろいろ詮索されるという事情もあるのかもしれません。

池田:親子関係も最近はかわっていますよね。関係が近すぎることもあれば、子どもが親に気を遣っていることが多い印象も受けます。母親が望まない治療は受けません、といった気持ちもあるのかもしれませんね。それぞれの親子関係や世代ごとの考え方の違いも絡み、難しい問題です。

パートナーを選ぶように、産婦人科医も選んで

池田:参加者からもチャット機能からコメントをいただいておりますので、一部紹介します。
「がん検診の結果を間違えて伝えられたとき、医師の態度が軽い感じで不快な思いをした。その後、今はよい医師に出会えてよかった。まったく配慮のない医療従事者が変わっていくにはどうしたらいいと思いますか」
ーーこんなコメントをいただいています。


イベント中、参加者からリアルタイムでさまざまな声が寄せられた

スプツニ子!:メディアでも啓発できると思うのですが、今後は、患者側が合わないと思ったら、医師や医療機関をスイッチする選択をもっと積極的にやっていいんじゃないでしょうか。

特に産婦人科は自分に生涯寄り添ってくれるパートナーみたいな存在ですから、自分のパートナー探しと同じように、「産婦人科も選ぼう」ということがもっとフューチャーされるべきだと思います。近くて通いやすいからと、行き当たりばったりで受診して、それで何か嫌なことを言われて諦めたり我慢したりするだけではなく、です。医師側も「いまや自分は患者さんに選ばれている立場なんだ」と認識することで、患者さんへの対応や意識も変わるのではないかと思うんです。

池田:そうですよね。産婦人科を受診して傷ついて、それでもう二度と行かないとなって、病気になってしまうよりは、そちらのほうがよほどよいですよね。また、先ほどから、スプさんが「産婦人科は人生に寄り添ってくれる存在」と言ってくださっていますが、現実は「産む、産まないの選択や、ジェンダーの話は、個人の権利であって、誰かに規範やこうあるべきを押し付けられるものではない」という認識がまだまだ医療側に不足していて、それで傷ついてしまっている人が一定数いそうな気がします。

教育の話に立ち戻りますが、今医療全般で行われている患者中心医療のプラスαとして、例えば生殖に関して個人の選択が尊重されるよう、産婦人科医が身に付けておかなければならないことを系統的に学ぶ機会が必要だと感じています。我々医師は、そういう教育を受けたことがないため、理解度にも個人差が大きいかもしれないですね。

スプツニ子!:産む、産まないの自己決定権の話や、避妊の権利の話などは医学部の授業で1タームぐらい費やしてもよいのでは。社会学の先生に講義してもらうのもよいと思います。それぐらい時間を割くべき、重要なテーマではないかと私は考えます。

背景にあるのは、保険点数の低さか

池田:垂井さんがご紹介してくださった患者さんのアンケートで、隣の診察室の患者さんの声が漏れ聞こえてくるという、そもそも設備や作りの問題に関係するものもありましたね。他にも、産婦人科は内診台の足元側をスタッフが行き来できる作りになっていることが多いですね。アメリカやイギリスの医療施設を訪問した際はそんな作りにはなっていませんでしたが、なぜこうも違うのでしょうか。

吉本:当院では内診台と診察室が並んでいて、私が診察する後ろ側に看護師さんが検査結果やカルテをやりとりをするバックスペースがあって、そこはもう戦場なわけです。当院では一日100人以上の患者さんが受診されますが、このバックスペースで看護師さんたちが次の段取りを考えながら立ち回ってくれているからこそ、やっと1日の外来を回せている状況なんですね。

もちろん、プライバシーをもっと尊重してあげたいという思いはあるのですが、同時に効率よく外来を回して、なるべく多くの患者さんを診てあげたいという思いもあって、そのバランスがとても難しいと感じます。あえて正直に言いますと、私が内診室に入るまえに、すでに患者さんが内診台にのって準備して待っていてもらっていたほうが、診察はスムーズに行くんです。内診台が上がって、患者さんの体勢が整うまで30秒ほどですが、その時間さえ惜しい感じてしまうほど、診療に追われて焦る日もあるんですね。

スプツニ子!:これは日本の医療システムと無関係ではないかもしれませんね。日本は国民皆保険制度により医療へのアクセスが非常によく、患者さんは低い自己負担額でいろんな先生に出会えるメリットがありますが、一方でそれが運営側の負担となっていることもあるのではないかと。どんなに丁寧に診療しても一律のお金しか入らないとなると、なるべく多くの患者さんを診ないと経営的に厳しいという面もありますよね。

吉本:初診の患者さんで、問診を含めて時間をかけて診察しても、患者さんの負担は何百円で、クリニックに入ってくるお金も2,800円。再診で結果確認だけだと700円しか入ってこないというのが実状です。やはりなるべく多くの患者さんを診るようにしていかないと、経営上賄えない部分はどうしてもあります。

池田:アメリカは患者さんを1日に10名ほどしか診ないにも関わらず、お給料は日本の医師の3倍ぐらいもらっていますよね。日本では医師が時間をかけて患者さんに説明する行為が安く見積もられていて、3分診療で数をこなしてやっとクリニックが運営できるぐらいに医療費が設定されているんですよね。しかも産婦人科は内診台に上がってもらうことが多いですから、患者さんが診察室から移動し、服を脱いでもらって、台に上がってもらってとなると、他科の診療よりも時間がかかり、余計に大変ということもあるでしょう。

スプツニ子!:それはありますよね。産婦人科は患者さんとのコミュニケーションがとても大切な科だと思いますが、そこに費やす時間も保険の点数に加味してもらうなど、医療システムを見直していく必要があるのかもしれませんね。

医師と患者間に「同意」を

池田:そろそろ、タイトルにもあります通り「じゃあ、女性医療はどうなったらいいの?」ということで、解決策のブレストに移りたいと思います。どうしたら女性医療はもっとよくなるのか、また、もうちょっと自分たちの納得できる医療になるかについて考えていきたいと思います。垂井さんはいかがですか?

垂井:そうですね、私たちが病院を受診するまでの情報が、もっと厚くなるといいのかなと思っています。病院や薬局の待合には予防や病気の解説など無料の冊子が置いてあって、読み込むとたくさんいいことが書かれているんですね。こんなに情報があるんだって驚かされるのですが、でも、病院に行かない限り情報にはたどり着けません。もっと私たちが医療情報にアクセスできる機会があるといいなとつくづく感じます。

最近では待合のモニターで医療情報を流してくれる医療機関もあるんですね。自分に関係ないと思っていた情報でも、流れてくる情報に触れて意外とハッとすることもあったりしますよね。あとすごく面白いなと感じたのが、診察室の机にあるモニターが、医師が席を外した途端、患者さん向けの病院情報に切り替わったことがあって。

医師を待っている間のちょっとした時間ですが、そこで観た内容が医師との会話の糸口になり、医師とよりフレンドリーな関係性が築けるのではと思い、とてもよい試みだと感じました。

池田:今のお話を伺って、子どもを予防歯科の健診に連れて行ったことを思い出しました。小さい子どもに口の中に入れる器械をひとつひとつ見せて、「今日、これ入れていい?」、「今日はだめか。じゃあ今度怖くなくなったら教えてね」などと歯科医が聞いてくれるんです。その日に全部検査しようとしないで、子どもに安心してもらいながら、ちょっとずつ診察をしてくれたんですね。

垂井:それは素晴らしいですね。医師と患者さんの関係においても、この「同意」というのがとても大切なんじゃないかと思っています。内診台についても、「内診台での診療が○○のために必要なのですが、いいですか?」「はい、お願いします」という確認や、また患者さん側から「診察では内診なしでお願いできますか?」など、事前のちょっとしたやりとりがあるだけでコミュニケーションがすごく潤滑になり、いい形で医師と患者さんが繋がれるのではないでしょうか。

医師と患者を橋渡しする、第三者機関が必要か

スプツニ子!:一連のお話に関連して改めて思ったのは、患者さんのなかには追加の費用を払ってでも、もっとちゃんと自分の身体や病気のことを知りたいと思う人が多いのではないか、ということです。

日本の医療システムにどう落とし込めるか分かりませんが、たとえばクリニックがオンラインサロンなどのコミュニティを運営し、患者はサブスクのように月額を払えば、そのコミュニティのなかで情報交換やセミナーが受けられるようなサービスを提供するとか。そうなると、運営側も資金面や時間の上でもう少し余裕ができるのかなと思いました。

吉本:そうですね。今回私が感じたのは、やはり、患者さんの声をもっと聞く機会が欲しいなということです。こちらも患者さんの本音が分かりますし、一方、患者さん側の捉え方に誤解があるときは、医師が医学的に解説してあげることもできますしね。

たとえば、40歳を過ぎて不妊で悩んで来院された場合、患者さんの年齢のことを考えると、「もっと高度なところに行ったほうがいいと思います」という話を私もするのですが、患者さんにしてみたらその言葉に傷つくこともあるんですね。当院で一般不妊治療をするよりも、もっと高度な治療を受けたほうが確率が上がると考えお伝えしているのですが、スプさんがご提案されたように、医師と患者間でコミュニケーションの行き違いが生じた場合、誤解を解いてもらえるような第三者的な場があればいいのかなと思いました。

乳がん界では、他科に先んじて医師と患者が協働


終盤では増田美加氏も加わり、乳がん領域における取り組みを紹介

池田:司会の増田美加さんにも伺ってみたいと思います。乳がん学会では、患者さんの声が医療の専門家に届くための仕組みづくりは、ずいぶん前から行われているんですよね?

増田:はい。乳がんもほとんどが女性の患者さんですので、胸を男性医師や技師さんに診られたくない、触診されたくない、マンモグラフィに挟まれて痛かったなど、不安や傷つき体験をよく耳にします。でも、乳がんの領域は、90年代のアメリカのピンクリボン運動を契機に、日本でも比較的早い段階から患者と医師が協働して、よりよい治療をしていこうという取り組みが行われてきた側面もあるんです。

何より乳がん患者さんは、年齢層が比較的若くてパワーがあり、罹患率は高いけど死亡率が低いこともあって、全国的に乳がん経験者(サバイバー)による活動が盛んになりました。その頃から、乳がん学会が先導する形で医師と患者さんが一つの目的に向かって、一緒にウォークイベントをしたりと、さまざまな取り組みがなされてきました。

現在は毎年、乳がん学会の学術総会内で患者・サバイバー主導の枠を1日、帯で設けて、学会に参加する医師にセミナーをしてもらい、医療者と患者・サバイバーがディスカッションをしています。もちろん、医療者の学会発表にも一部のスポンサー枠を除けば、ほとんどのプログラムに患者・サバイバーやその家族が参加可能です。また、医療者向け乳癌診療ガイドラインの4年に1回の改訂にあわせ、患者向けガイドラインも改訂し発行され、ガイドライン執筆には医療者向け、患者向けともに、患者も加わっています。

また、もうひとつ紹介させていただきたいのが、この女性医療ネットワークで私たちが14年、毎月行っている「マンマチアー(mamma cheer)~乳房の健康を応援する会」という取り組みです。これは毎月医療者や専門家に登壇いただく無料のセミナーで、医師やコメディカルの方、乳腺科だけでなく他科の医師も参加し、会員制ではなく、一般の方がいつでも誰でも参加することができます。この取り組みは女性医療ネットワークでも大きな財産だと思っていまして、患者さんやサバイバーのリテラシーアップにも繋がりますし、医療者からも、患者さんの想いを知り、日々の診療に活かせるということで、とても意欲的に参加していただいています。

池田:乳がんの患者さんと乳がん学会が連携して、先進的な取り組みが生まれてきているのですね。私たち女性医療の分野も、もっとできることがたくさんあるということですね。それでは、最後になりますが、今日の全体を通じてみなさんが今お感じになっていることを、一言ずつお願い致します。

スプツニ子!:女性医療は確かにいろんな課題を抱えているかもしれません。でも、多様性への理解やイノベーションに直結する領域でもありますから、むしろ「日本の医療を女性医療が引っ張っていく」ぐらいの気持ちで、新しい医療スタンダードをぜひ私も一緒になって作っていきたいと、改めて感じました。

垂井:先ほど池田さんのお話に、「水飲み場までは連れていけるけど、水を飲むか飲まないかは患者さんが決める」という言葉がありました。この「私たちが決める」という点こそ、医療において今後とても大事になるのではないかと思っています。答えは患者自身の中にあると。その思いや姿勢がどんどん普及していくなかで、私たちにとって、より親身でフレンドリーな産婦人科医が増えていくといいなと思っています。

吉本:私も同じように、もっと患者さんに決定権のある医療が必要だと思っています。そのためには、医師側が情報提供をしっかり行い、その情報のなかから、患者さん自身が自分の人生に合った選択をしていけるという意識が、これからの産婦人科には必要なんだと思います。

池田:3人とも同じ方向を向いたコメントだったので、少し驚いています(笑)。あっという間の時間でしたが、みなさんご参加いただき、コメントもたくさんいただき、本当にありがとうございました。

本イベントは単発に終わらず、今回を初回としてシリーズ開催を予定しています。会を重ねることで、当団体としても患者さんのため、女性医療全体の未来のため、より大きな動きに繋げていければと思っています。

閉会の挨拶

増田:本日は1時間半にわたる第一回「私たちの女性医療、どうなったらいいの?会議」にご参加いただきまして、ありがとうございます。ご登壇いただいたみなさまもありがとうございました。当事者の女性たちと医療者がフラットに語り合える場になっていたら幸いです。

本イベントは、次回以降も継続開催していく予定です。次回テーマはまだ決まっていませんので、産婦人科領域はもちろん、その他女性医療で取り上げて欲しいテーマや希望するゲストなど、ぜひ、声をお寄せいただけますと幸いです。本日はありがとうございました。

(執筆/医療ライター・内田朋子)